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東京地方裁判所 昭和49年(行ウ)118号 判決

東京都中央区日本橋四丁目四番地

原告

日本ジエスコール産業株式会社

右代表者代表取締役

酒井正衛

右訴訟代理人弁護士

進藤寿郎

多久島耕治

東京都中央区日本橋堀留町二の五

被告

日本橋税務署長

高橋照忠

右指定代理人

宮北登

鳥居康弘

宮渕欣也

服部昭一

飯久保英夫

池田隆昭

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告

1  被告が原告に対し、原告の昭和四五年八月一日から同四六年七月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、同五一年四月一七日付でした再更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税各賦課決定処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二、被告

1  (本案前の申立て)

主文第一項と同旨

2  (本案の申立て)

原告の請求を棄却する。

第二、原告の請求原因

一、原告は活性炭素の製造並びに販売等を業とする株式会社であるが、本件事業年度における法人税について次表のとおり確定申告し、同表記載の経緯で各課税処分をうけた。

二、しかしながら、被告が原告に対し、昭和五一年四月一七日付でした再更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税各賦課決定処分(以下、右各処分を一括して「本件再更正処分」という。)には信義則に違反した手続的瑕疵と原告の所得金額を過大に認定した違法がある。

よつて、原告は本件再更正処分の取消しを求める。

第三、被告の本案前の申立ての理由並びに請求原因に対する認否及び主張

一、本案前の申立ての理由

1  原告は、被告が原告に対し本件事業年度について昭和四八年六月三〇日付でした更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(以下一括して「本件更正処分」という。)の取消しを求めて昭和四九年八月二〇日、訴え(本訴の訴え変更前の請求。以下「旧訴」という。)を提起したが、本件更正処分につき原告のした審査請求に対する裁決書謄本(以下「本件裁決書謄本」という。)は、同年五月二〇日に送達されており、旧訴は行政事件訴訟法一四条所定の出訴期間を徒過して提起された不適法な訴えであるから却下されるべきであつた。

2  被告はその後、原告の本件事業年度の法人税について昭和五一年四月一七日付で本件再更正処分(増額)を行い、同日、原告に更正通知書を送達した。したがつて、本件更正処分は本件再更正処分により吸収されて消滅した。

原告は、本件再更正処分がなされてから七か月以上も経過した昭和五一年一一月二五日、同日付の準備書面を提出し、本件再更正処分の取消しを求める訴え(本訴の訴え変更後の請求。以下「新訴」という。)に変更する旨の申立てをした。

3  しかしながら、元来、訴えの変更は変更された請求、すなわち、新たな訴えについて審判を求めるものであつて、その変更の申立てがなされたときに訴えが提起されたものと同様に解されるから出訴期間の遵守の有無は右変更後の訴えについて決すべきである。したがつて、訴えの変更は、遅くとも再更正処分(増額)があつたことを知つた日から三か月以内にされなければならない(行政事件訴訟法一四条一項)ところ、前記のとおり、原告の本件訴えの変更は出訴期間を徒過した不適法なものであるから、訴え変更後の本件訴えは却下されるべきである。

もつとも、更正処分取消しの訴えと再更正処分取消しの訴えが実体的違法、すなわち、同一納税者の同一国税の課税標準の数額等の認定の違法を理由として取消しを求める場合にはいずれも当該国税に関する賦課処分に存する実体的違法性の全部が訴訟の対象となつているので訴訟の対象は実質的には同一というべきものであるから、当初の更正処分取消訴訟が係属中に再更正処分取消しの訴えが交替的に変更された場合には、当初の訴え提起の時に再更正処分取消しの訴えが提起されたものとして出訴期間の遵守を判断すべきであるとの見解もあるが、この見解によつても本件のように当初の更正処分にかかる訴えが出訴期間内に提起されていない場合には不適法となることは明らかである。

仮に、本件のように当初の訴え提起も訴えの変更に基づく新訴の提起もともに出訴期間を徒過していながら、なお適法な訴えとするならば、更正処分及び再更正処分がなされてから数年を経過していずれも出訴期間を徒過した後においても、取りあえず当初の更正処分取消しの訴えを提起し、訴え係属後再更正処分の取消しの訴えに適法に訴えを変更することが可能となり、かくては行政処分取消しの訴えについて出訴期間を定めた制度趣旨が没却されることになる。

本件においては、当初の更正処分取消の訴え自体が出訴期間を徒過した不適法な訴えであり、しかも交替的に変更された再更正処分取消しの訴えも出訴期間を徒過した不適法な訴えであり、そのうえ再更正処分について適法な審査請求手続を経ていないのであるから、本件訴えは却下されるべきである。

二、請求原因に対する認否

請求原因一の事実は認めるが同二の主張は争う。

三、被告の主張

1  本件事業年度における原告の所得金額の内訳は以下に述べるとおりである。

(一) 被告が原告の申告所得金額二三、二〇一、五五二円に加算した項目及び金額は次のとおりである。

(二) 前項の項目、金額の詳細は、次のとおりである。

(1) 買換資産圧縮限度超過額否認

一六、二六一、九二八円

(ア) 原告は昭和四五年三月二六日、栃木富士産業株式会社に対し、原告が所有する栃木市大宮町所在の栃木工場の土地を代金二一三、五八九、〇〇〇円、引渡期日昭和四五年七月三一日とし、かつ、更地で引渡す旨の約定で売渡した。

(イ) 原告は、右土地の売却益の一部である一二二、七六四、〇〇〇円につき租税特別措置法(昭和四四年法律第一五号による改正前のもの。)六五条の五の規定を適用して昭和四四年八月一日から昭和四五年七月三一日までの事業年度(以下「昭和四五事業年度」という。)に特別勘定を設定し、これを本件事業年度で取崩すとともに、同年度中に取得した建物五六、五六三、一三九円、構築物八、九二五、八九五円、機械装置四〇、二三〇、九〇五円及び製造炉三〇、一五五、五八二円を買換資産とし、右土地の売却にかかる差益割合は九三パーセントであるから、これを買換資産の取得価額に乗じて算出した圧縮限度額は一二六、三六四、二三三円であり、圧縮限度額と取崩された特別勘定の金額との範囲内の金額である一二二、七六四、〇〇〇円を買換資産の帳簿価額にかかる圧縮損の金額として損金に算入した。

すなわち、原告は、右土地の売却につき、支払手数料についてのみを譲渡に要した経費の額に計算し、右土地に所在した工場建物、製造炉及び機械工具、器具備品の減価償却後の残存簿価に相当する金額は昭和四五事業年度において、取りこわし、ないし廃棄損の金額(後記(ウ)の「譲渡に要した経費の額」一覧表―以下「表」という。番号2ないし6の費用)とし、製造炉の解体費用の金額(表、番号7の費用)とともに損金に算入した。そして右建物等を本件事業年度中に解体ないし廃棄して、それに要した解体等の工事代(表、番号8の費用)も譲渡に要した経費以外の損金に算入した。

(ウ) しかしながら、右建物等の取りこわし費用等の金額から建物等の取りこわし等によつて発生した廃材のたな卸額(表、番号9の金額)を控除した金額は、右土地の売買契約において土地を更地として引渡す旨の契約条項にしたがい発生した費用であるから、右契約のため足銀不動産株式会社に支払つた手数料(表、番号1の金額)とともに差益割合の計算上、資産の譲渡に要した経費に該当するものである。したがつて、右土地の売却にかかる差益割合は七七・五〇パーセントになる。

また、買換資産にかかる帳簿価額の圧縮限度額は一〇五、三〇三、五二八円となるから、原告が損金に算入した圧縮損の金額一二二、七六四、〇〇〇円は一七、四六〇、四七二円が限度超過額となる。

ところで、圧縮損が減少することにより買換資産の帳簿価額はその金額だけ増加することになり、減価償却資産については減価償却計算の基礎となる金額が増加するので当該増加した金額に対する減価償却費の金額を計算すると一、一九八、五四四円となる。そこで右金額を限度超過額一七、四六〇、四七二円から控除した一六、二六一、九二八円を益金に加算した。

譲渡に要した経費の額

(2) 前期買換資産圧縮金額の戻入額

四六四、五〇五円

原告の昭和四五事業年度について、買換資産にかかる帳簿価額の圧縮額は差益割合が七七・五〇パーセントであるから過大圧縮額の取戻額は四六四、五〇五円となるのでこれを益金に加算した。

(3) 交際費等の限度額超過による損金不算入額

一、一六六、一六七円

原告が支出した交際費等の金額は、一般管理費に経理した五、九七六、六五三円と、工場管理費に経理した二、四五二、四四四円との合計額八、四二九、〇九七円であり、これに、租税特別措置法(昭和四六年法律第二二号による改正前のもの。)六三条の規定を適用した交際費等の損金不算入額は三、〇六七、八二〇円になる。

しかして、右三、〇六七、八二〇円から、原告が申告において交際費等の損金不算入額とした一、九〇一、六五三円を控除した残額一、一六六、一六七円は損金に算入されない。

(3) 前期圧縮限度超過額の当期減価償却費認容

九一五、八七四円

昭和四五事業年度の買換資産のうち、借地権並びに本件事業年度で除却した資産を除いた資産にかかる圧縮限度超過額の繰越額について、九一五、八七四円が減価償却費とみなされ損金に算入される。

(5) 除却資産の前期圧縮限度超過額認容

五三一、一一七円

原告は、昭和四五事業年度で、買換資産とした構築物及び機械装置の一部について、本件事業年度中に除却した。したがつて除却資産にかかる圧縮限度超過額の繰越額(構築物七八、九四三円、機械装置四五二、一七四円、合計五三一、一一七円)は損金に算入される。

(6) 納税充当金益金戻入認容

三五四、〇五〇円

原告は納税充当金三五四、〇五〇円を取崩し、益金に算入したまま申告しており、右金額は益金から減算される。

(7) 建物売却収入計上洩

四、五〇〇、〇〇〇円

原告は昭和四五年九月一〇日、栃木市大宮町沢田二、二七五番地所在の原告所有にかかる社宅等六棟を借地権付で小林倫三に譲渡したが、当該譲渡収入を益金に計上せず、隠ぺいしていたのでこれを益金に加算した。

(8) 仕入否認

五三〇、〇〇〇円

原告は、昭和四六年七月三一日、南部産業株式会社(実在しない架空の会社)から、オイルを仕入れたとして五三〇、〇〇〇円を架空計上していたので、これを仕入金額から減算した。

(9) 未払金否認

二、二〇三、四六一円

原告は昭和四六年七月三一日付で次のとおり未払金を計上したが、いずれも見込みで計上したものであり確定した債務ではないのでこれを否認し益金に加算した。

(10) 預り金否認

五、〇一二、二五六円

原告は昭和四六年三月三一日に関係会社である山久炭素工業株式会社の従業員斉藤弘行他二七名を転籍受入れた際、右二八名の山久工業株式会社における勤続年数は原告において通算することとし、これにともなう退職金相当額五、〇一二、二五六円を受入れたが、右受入金額は雑収入として益金に計上すべきであるところ、原告は預り金として経理していたのでこれを否認し益金に加算した。

(11) 建物譲渡原価認容

一、八〇一、九八〇円

前記(7)の建物売却収入計上洩に対する譲渡原価一、八〇一、九八〇円を損金とした。

(12) 退職給与引当金限度超過額過大分認容

六〇三、五三一円

原告の申告にかかる退職給与引当金限度額の計算に誤りがあり、限度超過額六〇三、五三一円が過大に益金に算入されていたのでこれを減算した。

(13) 未納事業税認定損

七二八、八八〇円

被告は昭和四六年八月三一日付で原告の昭和四五事業年度にかかる法人税について増額の再更正処分をしたので、その増額所得に対応する未納事業税を損金として減算した。

以上のとおり、原告の本件事業年度における所得金額は四八、四〇四、四三七円となり、右金額は本件再更正処分の所得金額四八、二四九、四九〇円を上まわるから本件再更正処分は正当である。

2 重加算税賦課決定処分について

前記1(二)の(7)の建物売却収入計上洩四、五〇〇、〇〇〇円から同(11)の建物譲渡原価一、八〇一、九八〇円を控除した金額二、六九八、〇二〇円及び同(8)の架空仕入の計上額五三〇、〇〇〇円の計三、二二八、〇二〇円はいずれも国税通則法六八条一項に規定する仮装隠ぺいの事実に基づくものであることが明らかであるから、これに対し重加算税を賦課したものである。

3 過少申告加算税賦課決定処分について

本件更正処分により納付すべき税額四、九二八、七〇〇円及び本件再更正処分により納付すべき税額四、二六六、八〇〇円の基礎となつた事実のうち重加算税対象を除く部分については、更正及び再更正処分前の税額の基礎とされていなかつたことについて国税通則法六五条二項に規定する正当な理由があるとは認められないので同条一項に基づき過少申告加算税を賦課決定した。

第四、被告の本案前の申立て及び被告の主張に対する原告の認否及び反論

一、本案前の申立てについて

1  被告の本案前の申立の理由1、2の事実は認める。但し、旧訴が不適法な訴えであつたとの主張は争う。同3の主張は争う。

2  (旧訴の出訴期間)

行政事件訴訟法一四条四項の出訴期間の計算においては、「裁決があつたことを知つた日」の翌日から起算されるものと解すべきである。同法一四条四項は、同条一項及び三項の期間を計算するにつき、「裁決があつたことを知つた日」を基準とする趣旨で設けられたものとみるべきであり、期間の計算については同法七条、民事訴訟法一五六条、民法一四〇条の規定に従い初日を算入すべきではない。

行政不服審査法四五条及び国税通則法七七条には「処分があつたことを知つた日の翌日から起算して」とあり、民法一四〇条と同じ計算方法をとつていることからも行政事件訴訟法一四条四項も同様に解すべきである。けだし、行政不服審査法、国税通則法及び行政事件訴訟法はいずれも行政庁の処分に対する国民の権利救済のための法規であり、救済を受けようとする国民に対して期間計算の方法を異にする必要性、合理性はないからである。

なお、更正通知書には異議申立て等の教示方法として、「この処分に不服があるときはこの通知を受けた日の翌日から起算して二日以内に日本橋税務署長に対して異議申立て、または国税不服審判所長に対して審査請求をすることができます。」と不動文字で教示されている。

したがつて、仮に被告主張のとおり解するとしても、右教示により原告会社担当者らが行政事件訴訟法一四条四項の出訴期間の計算について翌日から起算するものと考え、原告会社担当税理士からも「出訴期限は昭和四九年八月二〇日」とのメモを添えて原告代理人が引き継いだのであり、既に旧訴について本案審理は進行中であつたから、旧訴についての出訴期間の徒過は救済されるべきであつた。

3  (新訴の出訴期間)

被告は昭和五一年五月二〇日、同日付準備書面を提出し、旧訴は本件再更正処分がなされたことにより訴えの対象を欠くものとなり、訴えの利益がない旨主張したので、原告代理人は、同日開かれた口頭弁論期日において、被告代理人に対し、本件再更正処分について不服申立て手続を経由すべきか否か、訴えの変更をすれば足りるかとの点を尋ねたところ、被告代理人は原告代理人に対し、次回期日に書面で訴えを変更するようにと指導したので、原告代理人は同年一一月二五日、同日付の準備書面を提出し、訴え変更の申立てをしたのである。原告代理人は右のとおり被告代理人の指導に従つたのにもかかわらず、被告代理人が新訴について、出訴期間徒過等の主張をするのは禁反言の法理に反するので失当である。

仮に右主張が認められないとしても、既に新訴について本案審理は進行中であるので、出訴期間徒過の瑕疵は治ゆされているものというべきである。

二、被告の主張に対する原告の認否及び反論

(認否)

1 被告の主張1(一)の表、番号1、同(二)の(1)、(2)は争う。同(二)の(7)ないし(13)は認める。

2 同2は認め、同3は争う。

(反論)

被告の主張1、(二)、(1)の(ウ)の主張は争う。同項で被告が主張する費用は、被告主張のように栃木工場の土地の譲渡に要した経費とみるべきではなく、移転費用というべきであるから、被告の認定は差益率を誤つたものである。

第五、証拠関係

一  原告

1  甲第一号証の一ないし三、第二、第三号証、第四号証の一、二、第五、第六号証

2  乙第一号証の成立は不知。第二ないし第四号証の成立はいずれも認める(第二号証については原本の存在も認める。)。

二、被告

1  乙第一ないし第四号証

2  甲第一号証の一ないし三、第五号証の成立はいずれも認める。その余の甲号各証の成立はいずれも不知。

理由

一、原告が昭和五一年一一月二五日、本件旧訴を新訴に交換的に変更する旨の申立てをしたことは当事者間に争いがないところ、被告は右申立ては出訴期間を徒過したものであるから不適法であると主張するので以下検討する。

二、原告の申立てにかかる本件新訴は、本件更正処分取消しの訴えに替えて本件再更正処分取消しの訴えについて審判を申立てるものであるところ、このような場合、新訴についての出訴期間は行訴法二〇条のような規定がないので、行訴法一四条一項所定の出訴期間遵守の有無は新訴について審判の申立てをしたとき、すなわち、訴え変更の申立てをしたときを基準とすべきものと解するほかはない。

そして、本件再更正処分が昭和五一年四月一七日付でなされ、同日原告に通知されたこと、原告は本件再更正処分から七か月以上経過した同年一一月二五日、同日付の準備書面を当裁判所に提出し、本件再更正処分の取消しを求める訴え(新訴)に、訴え変更の申立てをしたことは当事者間に争いがないから、本件新訴が出訴期間を徒過した不適法な訴えであることは明らかである。

三、もつとも、更正処分取消しの訴え(本件旧訴)と再更正処分取消しの訴え(本件新訴)は、それぞれ各処分固有の手続的瑕疵を理由として取消しを求める場合は格別、処分の実体的違法、すなわち、同一納税者の同一国税の課税標準の数額等の認定の違法を理由として取消しを求める場合は、いずれも当該国税に関する課税処分に存する実体的違法性の全部が訴訟の対象となつており、訴訟の対象は実質的には同一と解せられるのであり、したがつて、新訴について審判の申立てをしたときが出訴期間経過後であつても、旧訴が出訴期間を遵守した適法な訴えであればなお新訴についても出訴期間は遵守されたものとしてこれを適法と解すべき余地がある。

そこで、本件旧訴が出訴期間を遵守した適法な訴えであつたか否かにつき検討するに、原告が本件更正処分について本件裁決書謄本の送達をうけたのは昭和四九年五月二〇日であることは当事者間に争いがなく、旧訴の提起が同年八月二〇日であることは記録上明らかであるから、旧訴について出訴期間が遵守されたかどうかは、右出訴期間の計算上、本件裁決書の謄本が送達された日を初日として期間に算入するか否かによつて決定されるものといえる。

そして、取消訴訟の出訴期間の計算上、行訴法一四条四項所定の「裁決があつたことを知つた日又は裁決の日から起算する。」とは、裁決があつたことを知つた日を初日とし、これを期間に算入して計算すべきものと解するのが相当である(最高裁判所昭和五二年二月一七日判決、最高裁判所民事判例集第三一巻第一号五〇頁参照)。したがつて、本件旧訴は出訴期間を徒過して提起されたものといわねばならず、また、原告の責に帰すべからざる事由により出訴期間(不変期間)を遵守することができなかつたとの事実は本件訴訟記録上、認定しえないから、結局、旧訴は不適法な訴えであつたものというべきである。

してみれば、前示のような前提に立つても、本件旧訴が不適法な訴えである以上、本件新訴を適法とみることはできないといわざるをえない。

四、原告は、本件訴えの変更は、昭和五一年五月二〇日、第一三回口頭弁論期日において被告代理人から指導をうけ、これをなしたものであり、被告が本件新訴について出訴期間徒過等の主張をするのは禁反言の法理に反する旨主張する。

しかし、原告の右主張も理由がない。すなわち、仮に原告主張のような指導がなされたとしても、本件旧訴については審査請求の手続を経ている以上、本件新訴については再び右手続を経ることを要しないのであるから、右指導には、事柄の性質上、訴えの変更をするのであれば、次回第一四回口頭弁論期日(右期日が出訴期間内である昭和五一年七月一日であることは本件記録上明らかである。)までに訴え変更の申立てをするようにとの趣旨が当然含まれているものと解されるところ、それにもかかわらず原告は前記のとおり、出訴期間を徒過した昭和五一年一一月二五日訴え変更の申立てをしたのであるから、本件新訴について出訴期間を徒過したのは原告において、被告代理人の前記指導の趣旨にそう措置を講じなかつたことによるものというべきである。したがつて原告の右主張は全く失当である。

また、原告は、既に新訴について本案審理が進行中であるから出訴期間徒過の瑕疵は治ゆされている旨主張するが、そのように解すべき根拠はないから右主張も採用することができない。

五、以上の次第で、本件訴えは不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山下薫 裁判官 佐藤久夫 裁判官 高橋利文)

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